確定申告と支払調書について

~経理初心者にもわかる「税金と書類」の関係~

掲載:2025/11/11

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はじめに

毎年2月から3月にかけて、「確定申告」という言葉を耳にする機会が増えます。 テレビやインターネットでも、「確定申告の時期です」「医療費控除をお忘れなく」といった呼びかけを見かける方も多いでしょう。 しかし実際のところ、「確定申告とは何をするものなのか」「支払調書ってどう関係しているのか」と聞かれると、明確に答えられる人はそれほど多くありません。 特に給与所得者の方の多くは勤務先で年末調整を受けているため、自分で申告をした経験がないという人も少なくないでしょう。

本記事では、確定申告と支払調書の基本的な仕組みから、その目的、そして実務上どのように扱われているかまでを、できるだけわかりやすく解説していきます。 税務署に提出する書類の一部を「なんとなく難しそう」と感じてきた方が、読み終えたあとに「なるほど、そういうことだったのか」と思ってもらえるように丁寧に説明していきます。

もくじ

確定申告とは何か

「確定申告」とは、一年間の所得(もうけ)と、それにかかる税金の金額を自分で計算し、税務署に報告する手続きのことです。 日本では、所得税は原則として「申告納税制度」という仕組みによって課税されています。 これは、納税者自身が自分の所得を申告し、その結果として税額を確定させる方式のことを指します。 たとえば会社員の場合、勤務先が毎月の給与から所得税を天引き(源泉徴収)し、年末には1年間の所得を再計算して過不足を調整する「年末調整」が行われます。 この年末調整によって所得税の精算が完了するため、基本的には個別に確定申告をする必要はありません。

しかし、会社員であっても副業や原稿料、講演料などの収入がある場合や、医療費が多くかかった年、住宅ローン控除の初年度などは、別途確定申告を行う必要があります。 また、個人事業主やフリーランスの方は、原則として毎年確定申告をして所得税を納めなければなりません。 確定申告の目的は、単に税金を納めるためだけではありません。 自分の収入状況を正確に把握し、適切な控除を受けて過不足のない納税を行うという、いわば「自分自身の会計報告書」を作成する行為でもあるのです。

支払調書とは何か

確定申告を考える上で、もうひとつ重要な書類が「支払調書」です。 支払調書とは、企業や団体が外部の個人に対して報酬や料金を支払った際に、その金額や源泉徴収した所得税の額を記録し、税務署に提出する書類のことをいいます。 たとえば、企業が講演会の講師に謝礼を支払った場合、あるいはフリーランスのデザイナーにデザイン料を支払った場合など、その支払先が個人であれば、支払った側は「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成します。 この調書には、支払金額や源泉徴収した税額、支払を受けた人の氏名・住所などが記載されます。 支払調書は、支払う側が「誰にいくら支払ったか」を税務署に知らせるための報告書のようなものです。

支払を受けた側は、確定申告の際にこの支払調書をもとに収入を申告します。 ただし、支払調書は支払先本人に交付することが義務ではないため、すべてのケースで本人の手元に届くとは限りません。 多くの場合、支払側が税務署に提出し、その写しを受け取ることができるのは相手先に対して任意という扱いになっています。 そのため、確定申告をする人は、支払調書が届かなくても自分で受け取った報酬額を正確に把握して申告する必要があります。

源泉徴収と支払調書の関係

支払調書に関連して欠かせないのが、「源泉徴収」という制度です。 源泉徴収とは、報酬や給与などを支払う際に、あらかじめ所得税を差し引いておき、支払者が代わりに税務署へ納付する仕組みのことです。 たとえば、フリーライターが原稿料として10万円の報酬を受け取る場合、通常はそのうち10.21%(復興特別所得税を含む)の所得税が差し引かれ、残りの89,790円が実際に振り込まれます。 このとき差し引かれた10,210円は、支払者が税務署に納めているため、受け取った側は自分でその分を納税する必要はありません。

確定申告の際にはこの源泉徴収された税金を含めて「年間の所得」と「納付済みの税額」を申告し、最終的な税額を再計算します。 もし源泉徴収された税金が多すぎた場合は還付され、足りない場合は追加で納付することになります。 この調整こそが、確定申告の重要な役割です。 支払調書は、まさにこの源泉徴収の内容を記録する書類でもあります。 支払金額、差し引かれた所得税額、支払日などが記載されることで、税務署も個人の所得を把握しやすくなります。

支払調書の種類とその違い

支払調書といっても、ひとつではありません。 代表的なものには、報酬・料金などの支払調書のほか、不動産の使用料の支払調書、配当や利子に関する支払調書など、支払内容に応じて複数の様式が存在します。 たとえば講演料や原稿料などが対象となる「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は、個人への報酬関係に使われます。 一方で、不動産の賃料や地代を支払った場合には「不動産の使用料等の支払調書」が用いられます。 これらの調書はすべて、税務署が所得の全体像を把握するための重要な資料として活用されます。

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支払調書をめぐるよくある誤解

支払調書にはいくつか誤解があります。 もっとも多いのは、「支払調書が届かないと確定申告ができない」というものです。 実際には、支払調書は確定申告に必須の書類ではありません。 報酬を受け取った事実がわかる通帳記帳や請求書があれば、それだけで十分申告は可能です。 また、支払調書が複数届いた場合に、それぞれの金額を合計して申告する必要があることを知らず、一部しか申告しないというミスも見られます。 税務署は支払者からの提出分を把握しているため、記載漏れがあると後日問い合わせが来ることがあります。 もうひとつの誤解は、「支払調書に書かれている税額がそのまま納税額になる」というものです。 支払調書に記載されているのは、あくまで源泉徴収された税額です。 最終的な税額は、確定申告で全体の所得と控除を計算してから確定します。

確定申告の実際の流れ

確定申告の時期は、毎年2月16日から3月15日までと定められています。 申告方法には、税務署の窓口に書類を提出する方法のほか、郵送、または国税庁の「e-Tax」システムを使ったオンライン申告の方法があります。 申告の手順は、おおまかにいえば次のような流れです。 まず1年間の収入と支出を整理し、必要経費や各種控除を計算します。 次に、その結果から課税所得を求め、そこに所得税率を掛けて税額を算出します。 そして、源泉徴収された税額を差し引いたうえで、納付または還付の手続きを行います。 e-Taxを利用すれば、自宅からでも申告でき、還付も早く受け取れるため、多くの個人事業主が利用しています。

経理担当者の視点からみた支払調書の意義

確定申告の時期は、毎年2月16日から3月15日までと定められています。 経理担当者の立場から見ると、支払調書は単なる税務書類ではなく、会社の信頼性を支える重要な証拠資料でもあります。 外部の個人に報酬を支払う際に、源泉徴収を正しく行い、期限内に税務署へ提出することは、法令遵守の基本中の基本です。 また、支払調書の作成は毎年1月末が期限と定められているため、年末調整や法定調書合計表の提出と並んで、1月は経理担当者にとって最も忙しい時期となります。 正確な記録と期日管理が求められるため、普段から支払データを整理しておくことが重要です。

個人が気をつけるべきポイント

確定申告や支払調書に関して、個人が気をつけるべき点は、何よりも「自分の収入を自分で正しく把握すること」です。 支払調書が届かないことを理由に申告を怠ったり、源泉徴収されたからといって申告を省略したりすると、後日追徴課税を受けることもあります。 また、源泉徴収されている場合でも、経費を適切に計上することで税金が還付されることがあります。 自分の仕事にかかった費用をしっかり記録し、申告時に反映させることが、結果的に正しい納税につながります。

よくある質問

Q. 支払調書が届かない場合は、確定申告をしなくてもいいのですか?

A. いいえ、支払調書が届かない場合でも、確定申告を省略することはできません。支払調書は、支払った側(会社や団体など)が税務署に提出するための書類であり、受け取る側に必ず交付されるとは限りません。しかし、あなたが実際に報酬や謝礼を受け取っているなら、その金額を自分で集計して申告する必要があります。通帳の入金記録や請求書の控えなどをもとに、正確な金額を記載すれば問題ありません。

Q. 源泉徴収されている場合でも、確定申告は必要ですか?

A. はい、場合によっては必要です。報酬などからあらかじめ所得税が引かれている(源泉徴収されている)場合でも、あなたの年間の所得や経費、控除の内容によっては税金が還付される可能性があります。たとえば、経費が多かった年や、医療費控除・寄附金控除を受けたい場合などは、確定申告をすることで税金が戻ってくることがあります。源泉徴収はあくまで「前払い」のようなものであり、確定申告によって最終的な精算を行うことが大切です。

Q. 支払調書と源泉徴収票は同じものですか?

A. 似ていますが、別の書類です。源泉徴収票は、会社が従業員に支払った給与や賞与について発行するもので、給与所得者に交付される書類です。一方、支払調書は、個人事業主やフリーランスなどに報酬や謝礼を支払った際に、支払者が税務署へ報告するための書類です。つまり、源泉徴収票は「社員向け」、支払調書は「外部の個人向け」という違いがあります。

Q. 支払調書に間違いがあった場合はどうすればいいですか?

A. 支払調書の内容に誤りを見つけた場合は、まず支払者(報酬を支払った会社や団体)に連絡し、修正を依頼しましょう。支払調書は税務署にも提出されているため、訂正が必要な場合は支払者が「訂正の支払調書」を提出する形になります。ただし、確定申告の際に誤りがあったまま放置すると、税務署から確認の連絡を受けることがあります。早めの対応が安心です。

Q. フリーランスで複数の会社から支払調書をもらいました。全部まとめて申告するのですか?

A. はい、すべてまとめて申告します。複数の取引先から報酬を受け取っている場合、それぞれの支払調書に記載された金額を合計し、年間の総収入として確定申告書に記載します。税務署は各支払者から提出された支払調書をもとにあなたの所得を確認していますので、一部を申告し忘れると整合性が取れず、後日問い合わせを受けることがあります。収入は「すべてまとめて正確に」申告することが大切です。

まとめ

確定申告と支払調書は、どちらも税金の計算に欠かせない要素ですが、その役割は異なります。 支払調書は「支払った側から税務署への報告書」、確定申告は「受け取った側から税務署への申告書」です。 両者がそろって初めて、税務署は所得の全体像を正確に把握することができます。 一見すると煩雑に見える制度も、その背景には「税の公平さを保つ」という目的があります。 誰もが自分の所得に応じた負担をするための仕組みであり、それを支えるのが確定申告と支払調書なのです。

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