支払調書とは?経理初心者のためのやさしい解説
掲載:2025/09/15
はじめに
経理の世界には、日常生活ではあまり耳にしない独特の用語が数多く存在しています。その中のひとつが「支払調書」です。 給与明細や源泉徴収票といった言葉は多くの人が聞いたことがあるでしょう。 しかし「支払調書」となると、経理や税務に直接携わっていない人にとっては馴染みが薄いかもしれません。 実際にはフリーランスや個人事業主として働く人や、会社が外部の専門家や講師に報酬を支払う場面などで、とても重要な役割を担っている書類です。
本記事では、経理初心者の方や税務に不慣れな方にもわかりやすいように、支払調書とは何か、どのような役割を持ちどのように作成・提出するものなのかをできるだけ丁寧に解説していきます。
もくじ
支払調書の基本的な意味
支払調書は、一言でいえば「誰に、どんな内容で、いくら支払ったか」を税務署に報告するための書類です。 税務署は全国の人々が適切に納税しているかどうかを確認する必要があります。 しかし納税は自己申告が原則であり、すべてを税務署だけで把握することは不可能です。
そこで、報酬や料金を支払う側に対して、その支払いの事実を記録し税務署へ提出する義務を課しているのです。 この仕組みによって、例えばフリーランスとして報酬を得た人が申告をしなかったとしても、支払調書を通じて税務署が情報を把握できるようになります。 つまり支払調書は、納税漏れや脱税を防ぐための重要なチェック機能を果たしているといえます。
法定調書のひとつとしての支払調書
支払調書は、税務署に提出が義務付けられている「法定調書」と呼ばれる一群の書類の一部です。 法定調書にはおよそ六十種類もの書類が存在し、例えば給与所得の源泉徴収票や退職所得の源泉徴収票、不動産に関する調書、利子や配当金の支払いに関する調書などが含まれます。 支払調書はその中でも特に使用頻度が高く、経理の現場でよく登場する書類といえるでしょう。
支払調書の種類とよく使われるケース
支払調書にはいくつかの種類がありますが、その中でも代表的なのが「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」です。 これは弁護士や税理士、作家や講演者などに報酬を支払った場合や、プロスポーツ選手に契約金を支払った場合など、非常に幅広い対象をカバーしています。
そのほかにも不動産の使用料に関する支払調書や不動産の売買に伴う支払対価の調書、不動産取引における仲介手数料の調書などがあります。 日常的にもっともよく登場するのは、フリーランスや外部の専門家に報酬を支払った際に作成される「報酬等の支払調書」であり、経理担当者にとっても馴染みやすい書類といえます。
報酬等の支払調書の対象と金額の基準
具体的にどのような支払いが支払調書の対象になるのでしょうか。 例えば弁護士や税理士に対して1年間に5万円を超える報酬を支払った場合には支払調書の作成が必要になります。 作家や講演者に対する原稿料や講演料も同様です。また、外交員やホステス、プロボクサーに対して支払う報酬は、年間で50万円を超えた場合に対象となります。 社会保険診療報酬や競馬の賞金も条件を満たすと提出義務が発生します。
ここで注意したいのは、消費税を含めて考えるのが原則だという点です。 例えば請求書に税込金額だけが書かれている場合はそのまま税込で判定します。 請求書に消費税が明確に区分されている場合には税抜で判断してもかまいませんが、その場合には摘要欄などにその旨を明記する必要があります。 経理実務においては、この税込か税抜かの扱いを誤ると不要な調書提出や逆に提出漏れの原因になるため、細心の注意が必要です。
提出の期限と方法
支払調書には明確な提出期限が定められています。 基本的には支払いが行われた年の翌年の1月31日までに提出する必要があります。 提出方法は、書面を税務署に郵送または持参する方法のほか電子データで提出する方法も認められています。 e-Taxを利用した電子申告や認定を受けたクラウド会計サービスを通じた提出も可能です。
提出する調書が多い企業に対しては電子提出が義務付けられており、具体的には前々年に提出した法定調書の枚数が100枚を超えている場合には、原則として書面ではなく電子で提出しなければならないことになっています。 これに違反するとペナルティの対象になる可能性もあるため、大規模な会社では特に注意が必要です。
令和9年(2027年)1月1日以後の提出に関する重要な変更点
支払調書に限らず、すべての「法定調書」の電子提出義務に関して、令和9年1月1日以後の提出分から大きなルール変更があります。 現在は、前々年(2年前)の提出枚数が100枚以上のとき、e TaxやCD・DVDなどを通じた電子提出が義務となっていますが、2027年からはこの基準が「30枚以上」に引き下げられます。
例えば「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」のような支払調書を2025年中に30枚以上提出していた場合、その翌々年にあたる2027年の提出分から、「紙での提出はできず、e Taxなどによる電子提出が義務」となります。 これは、従来の「100枚」基準と比べ大幅にハードルが上がった改正であり、中小企業やフリーランスに対しても影響が及ぶ可能性が高いです。 国税庁の案内でも「令和7年中に提出した法定調書の枚数が30枚以上であった場合、令和9年に提出する調書は書面では認められず、e Tax等による提出が必要」と明記されています。
支払調書と源泉徴収票の違い
ここで混同しやすいのが、支払調書と源泉徴収票の違いです。 両者とも税務署に提出する書類ですが、対象が大きく異なります。 源泉徴収票は従業員に対して支払った給与や賞与、退職金などを記録するものであり、会社が従業員に交付する義務もあります。
一方で支払調書は、外部のフリーランスや専門家に支払った報酬に関する書類であり、受領者に交付する義務はありません。 したがって、会社に勤めている人は源泉徴収票を毎年目にすることになりますが、フリーランスや外注として仕事をしている人は支払調書を受け取る機会があるのです。
支払調書の記載内容と注意点
実際に支払調書を作成する際には、支払を受ける者の氏名や住所、マイナンバーまたは法人番号を記載し支払金額や源泉徴収額を明記します。 報酬の種類や内容についても細かく書く必要があります。 例えば「講演料」といった大きな区分だけでなく可能であれば具体的な講演のタイトルなども記載するのが望ましいでしょう。
マイナンバーの扱いについては特に注意が必要です。 支払調書を税務署に提出する際にはマイナンバーを記載しますが、支払先に交付する控えには記載してはいけません。 マイナンバーは極めて重要な個人情報であるため、管理体制をしっかり整えて社内でもアクセスできる人を限定することが大切です。 さらに、支払調書に押印は不要であり記入事項が正しく整っていれば印鑑を押さなくても有効な書類となります。
実務上の作成タイミングと効率化の工夫
支払調書は翌年1月末までに提出する必要があるため年明けの経理担当者は忙しさが増します。 特に年末調整や決算準備などと重なるため、余裕を持って1月中旬までには作成を済ませておくのが理想です。 支払を受けた人にとっても、自分の確定申告をする際に参考となる書類であるため、できるだけ早めに送付するのが親切です。
近年では会計ソフトやクラウドサービスが充実しており、支払調書も自動で集計して出力できる仕組みが整っています。 支払いデータを日頃から正しく入力しておけば、年明けに一気に支払調書を作成することができ、効率化とミス防止の両方につながります。
よくある質問と注意点
Q. 支払調書は必ず相手に交付しなければならないのですか?
A. 支払調書は税務署に提出することが義務付けられている書類であり、支払いを受けた相手に交付する義務はありません。フリーランスや個人事業主にとっては確定申告を行う際の参考資料となるため、実務上は多くの会社が相手に送付しています。送付する際にはマイナンバーを記載してはいけない点に注意が必要です。
Q. 支払調書を作らなかったらどうなりますか?
A. 提出義務があるにもかかわらず支払調書を作成・提出しなかった場合、税務署から「法定調書合計表」との突合で不備が指摘される可能性があります。悪質と判断されれば過料といった罰則が科されることもあります。とくに支払金額が大きい場合や提出漏れが多数ある場合は、税務調査の対象になりやすい点に注意が必要です。
Q. 支払調書と源泉徴収票の違いがいまひとつわかりません。
A. 源泉徴収票は、従業員に支払う給与や賞与、退職金などに関して作成する書類で従業員自身にも交付する義務があります。一方、支払調書はフリーランスや外注先に支払った報酬に関する書類で、交付義務はなく税務署に提出することが中心となります。源泉徴収票は「雇用関係にある人」に対して、支払調書は「外注や業務委託先」に対してという違いがあります。
Q. 支払金額は税込ですか、それとも税抜ですか?
原則として税込金額で判定します。請求書に記載されている総額をそのまま支払調書の対象額と考えます。ただし、請求書に消費税が明確に区分されている場合には、税抜金額で判定してもかまいません。その際は摘要欄に「消費税を含まない」旨を記載するのがルールとなっています。
Q. 支払調書の作成に印鑑は必要ですか?
支払調書には押印の義務はありません。法人名や所在地、法人番号などを正しく記載していれば、押印がなくても正式な書類として認められます。電子提出の場合はもちろん印鑑の概念がないため、印影を用意する必要もありません。
Q. 支払調書はすべての報酬に必要ですか?
必ずしもすべての報酬に必要というわけではありません。例えば、年間で5万円以下の弁護士報酬などは提出対象外となります。基準額は報酬の種類によって異なりますが、いずれにしても一定額以上の支払いがあった場合に限られるため、小規模な支払いについては調書を作成する必要がないケースもあります。
Q. 提出期限を過ぎてしまった場合はどうなりますか?
提出期限である翌年1月31日を過ぎてしまった場合には速やかに提出することが求められます。遅延が軽微であれば大きな罰則を受けることは少ないですが、繰り返し遅れる場合や悪質とみなされる場合には、罰金や調査のリスクが高まります。実務上は遅れてでも必ず提出することが重要です。
Q. 支払調書を受け取っていない場合、確定申告はどうすればよいですか?
フリーランスや個人事業主が確定申告を行う際に支払調書を受け取れなかったとしても、実際に得た報酬を申告する義務があります。通帳の入金履歴や請求書、契約書などをもとにして収入金額を計算し申告書に記載することが必要です。支払調書はあくまで補助的な資料であり、申告義務を代替するものではありません。
Q. 支払調書を作るときの実務的な工夫はありますか?
最も効果的なのは、日々の取引を正確に記録しておくことです。会計ソフトやクラウドサービスを活用して支払いごとに科目や取引先、源泉徴収の有無を入力しておけば、年末に自動で支払調書を作成できる機能が備わっている場合もあります。これにより、提出間際に慌てることなく効率的に作業を進められます。
Q. 公益法人や非営利法人でも支払調書は必要ですか?
公益法人やNPO法人などの非営利法人であっても税務上の支払調書の提出義務は免除されません。報酬や謝金を外部の専門家や講師に支払う場合には、営利法人と同様に支払調書の作成が必要です。公益活動の一環で支払った経費であっても、税務署にとっては課税対象の可能性があるため漏れなく処理しなければなりません。
Q. 令和9年(2027年)1月1日以後に提出する支払調書にも変更はありますか?
はい、法定調書の電子提出義務に関して大きな変更があります。これまでは前々年に100枚以上提出した法定調書が対象でしたが、令和9年1月1日以後に提出する分からは「前々年(2025年)に30枚以上提出した場合は、電子提出が義務」となり、紙での提出は認められません。これにより、中小企業や小規模事業者も対象となる可能性が増えています。
Q. 提出義務の判定はどうやって行われますか?
判定は提出義務者ごと法定調書の種類ごとに行われます。同じ会社でも支店ごとに分けて判断され支払調書の内容ごとに基準が適用されます。全体をまとめて判断するわけではありませんので部門ごとの実績確認が欠かせません。
Q. 今から準備を始めるなら、どんなステップが必要ですか?
まずは会計年中の提出実績を種類と部門ごとに整理してください。そのうえで、e Tax(Web版またはソフト版)、認定クラウドサービスのいずれかを選び、利用者識別番号や電子証明書の準備、操作テストなど事前体制を整えるのが望ましいです。また、業務フローやマニュアルの見直しも並行して進めると定着しやすくなります。
まとめ
支払調書は、普段は目にする機会が少ないかもしれませんが経理業務においては欠かせない書類のひとつです。 税務署に提出することが義務付けられており、適切に処理することで会社や団体の信頼性を守ることにもつながります。 FAQで取り上げたように、作成の必要性や交付の有無、金額判定の方法、期限を過ぎた場合の対応など、実務で迷いやすい点は数多くあります。 これらを一つひとつ理解し、実際の業務に活かしていけば、支払調書に対する不安は解消されていくでしょう。税務処理に不安がある場合は税理士に相談するようにしてください。
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